てがろぐMST-SR

No.682

押井:以前、僕がスカイウォーカーランチで「イノセンス」という映画のダビングをしてたときに「ルーカスがあなたに会ってもいいと言ってる。ただしあなた以外来ちゃダメ」って言われて会いに行ったんです。その秘密の扉を開けて、彼の直属スタッフ、親衛隊が仕事をしている部屋の横を抜けて、もう「謁見」って感じなんですよ。

で、いかがでした?

押井:全然ハッピーそうじゃない。いまの日本の若い映像関係者たちが最終的な目標にしているかもしれない人のひとりですよね。だけど、顔色も悪ければ口調も憂鬱そう、先に夢を抱かせるような話も出ない。「このおっさん、本当に幸せなんだろうか?」と思ったんです。

ハリウッドに行ったら成功者?
押井:もちろん、外から見たらルーカスはまぎれもない成功者ですよね。彼に限らず他にもいろんな勝ち組と言われている人にお会いしたけど、でも、僕にとっては「人生取り替えると言われたって、全然なりたくないぜ」という話なんです。監督としてはもちろん人生の勝利者に見えない。勝敗論的に言うと、あんなのを目標にしてもしょうがないな、というのが正直なところ。

酸っぱいブドウ、みたいに聞こえなくもないですが。

押井:そうかもしれないけれど(笑)、ある意味、彼らは自分の人生から自分自身がスポイルされている。だって、どんな人間もアポを取らなきゃ会えないんだから友達もいない。自分はおろか家族にまでガードがついて常に護られている。キャメロンにもデカい黒人が2人付いててさ、彼にアポをとって会いに行ったら「お前らなんだ」と止められるんだよ。「キャメロンに会いに来たんだけど」「え? 嘘つけ!」とか言われて(笑)。

 売り込みの電話が1日200本かかってくるとか、パクリだとか何だとかで訴訟を絶えず数百本抱えてるとかさ、成功するということが余計なものを抱えることにしかなってないというか、全然自由な感じがしない。羨ましがる人もいるかもしれないけれど、僕はまともな人生じゃないと思う。部分的なものだけど、そういうものを見聞したときにつくづく思ったんです。

不敗の構造を自分の仕事に作り込もう:日経ビジネスオンライン

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